METAL RYCHE m-2316

METAL RYCHE鋼鉄帝国として20年ほど前から やっていたホームページから転進しました。 「鋼の旋律」は主に音楽関係について。 ジャンルは軽音楽なので気楽に読んでくれ。 「鋼鉄の言霊」は社会一般に対する我が闘争。 我が妄想に近いが、我が早漏よりもましであろう。まあ、これも気楽に読んでくれ。 「銀河のスクラップ」は本や映画の感想など人生のスパイスだな。たまに塩味がきついが気軽に読んでくれたまえ諸君。

もっこすの城/伊東潤(10月9日読了)


 築城の際、現代の現場監督兼設計主任みたいな立場にあるのが城取。築城に関することは当時の最重要軍事機密だから全て秘伝とされていた。築城においては城主の影響力が大きいのはもちろんだが城取の影響力も非常に大きく、知識、技術はもちろん思想や人格までも城に反映されてくる。安土城を築城した城取を父に持つ木村藤九郎は本能寺の変で父を失い故郷を追われる。その後、秀吉の天下統一に伴い大出世を遂げて急速に家臣団を増大させていた加藤清正に仕える。清正の官位は主計頭(かずえのかみ)。荒々しい武闘派の一面とは別の優秀な管理能力を持つ武将であった。ゆえに秀吉は九州の要とも言うべき肥後の大名に抜擢したのだ。当時、肥後は国人がそれぞれ勝手に納めているような、天下統一の流れから大きく取り残された国状であった。清正がまずやったのは治水事業。民の心つかまなければ国は治まらない。その治水事業にまったく門外漢の藤九郎が軍配を任される。何とか治水を成功させた彼はその後、様々な普請事業をこなしていくのだが清正は朝鮮の役に出陣していく。その朝鮮の役になんと藤九郎も出陣することになる。朝鮮での戦は完全に守勢になっており防衛のため城が必要になったのだ。この物語は藤九郎が主人公であるが要所、要所で出てくる加藤清正の格好良さと言ったら惚れ惚れする。朝鮮の役での清正の強さは伝説的で朝鮮・明軍から畏敬を込めて鬼上官と呼ばれていた。その激しい戦いもついに太閤秀吉の死と共に空しく終わる。それまで清正は太閤殿下のためにひたすら尽くして生きてきた。藤九郎はそんな清正の一途な生き方に共感して一身を捧げてきた。その集大成として命じられたのが熊本城築城だった。清正は言う「城とは戦をせぬための道具だ」武断派の筆頭であった清正は疲弊する民の姿を見て空しい敗戦だった朝鮮の役を経て考え方が変わり世の静謐に尽くそうとしていたのだ。肝心の熊本城築城は物語の最後半、全体からすれば意外なほどページ数が少ないのだが、それはこの物語が熊本城を頂点とした、人と世の中に尽くす人々の物語だからである。藤九郎は城取としての気概から主人清正に尽くすが、次第にその生き方にも共鳴し遂には人生を捧げる。その藤九郎は弟、藤十郎や溺れていたところを助けられた又四郎、藤九郎によって耕作地が増えたり、水害から救われたりした農民から尽くされている。戦国時代という極限状況の中では人は欺し騙される事が多かっただろう。だからこそ信じるべき人をひたすら信じて尽くして生きていく必要もあった。その生き方は俺のような昭和の価値観を持つ人間には熱く感じられ一種の憧れすら感じる。ブラック企業パワハラ、幸せ搾取・・・そんな現代の薄っぺらい価値観を吹っ飛ばす熱い物語である。

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 物語とは少し離れるが俺は熊本出身なので熊本城が好きだ。だがこの度の地震で崩れた石垣一つ一つに番号を書き復旧する作業にバカではないかと思っていた。しかしこの考えを改めた。もちろん現代の技術を加味して崩れなくすることは重要だがあの組み方をするにはあのような作業をするしかないのだな。「人は城 人は石垣 人は堀」か。