METAL RYCHE m-2316

METAL RYCHE鋼鉄帝国として20年ほど前から やっていたホームページから転進しました。 「鋼の旋律」は主に音楽関係について。 ジャンルは軽音楽なので気楽に読んでくれ。 「鋼鉄の言霊」は社会一般に対する我が闘争。 我が妄想に近いが、我が早漏よりもましであろう。まあ、これも気楽に読んでくれ。 「銀河のスクラップ」は本や映画の感想など人生のスパイスだな。たまに塩味がきついが気軽に読んでくれたまえ諸君。

西郷の首/伊藤潤(角川文庫)4月10日読了

 この小説を読むまで気づいていなかったが、江戸時代の加賀前田家百万石は外様大名では最大だったのだな。幕末から明治維新にかけて大きな存在感を発揮してもおかしくなかったのだが人材を全く排出出来なかった。そんな幕末マイナー藩となった加賀前田藩の下級武士二人が主人公。伊藤潤氏は主人公と幼馴染か非常に深い絆で結ばれた男子二人が避けがたい運命によって戦うようになりながらも友情を通わせ合うという展開が得意だ。まるでハードロックにおけるツインリードの様で小説版ツインリード!この作品では西南戦争で西郷の首級を発見した(討ち取ったわけではない)千田文次郎と大久保利通を暗殺した島田一郎のツインリードである。二人は竹馬の友であるが猪突猛進的な一郎に対して慎重な文次郎と性格は対象的。とにかく幕末の加賀藩なんて全然知らなかったのでエピソードの全てが新鮮。しかしそれは地味かつ陰惨。戊辰戦争が始まってようやく物語も動き出す感じだ。日本は1614年の大阪夏の陣から1864年蛤御門の変まで250年間大規模な戦闘行為がなかった。(天草の乱を除けば)武士がどんなに偉そうに言っても人殺しなんぞしたことがない連中が大部分だった。参加した武士または尊皇攘夷を叫ぶ志士達も実際の戦闘となると大部分は腰が引けたに違いなく戦闘指揮なんぞグダグダだったことは想像に難くない。加賀藩は幕府側に立っていたものの動きは鈍くこのあたりは老獪な動きを見せた関ヶ原の頃を思わせる。よって本格的な戦闘は戊辰戦争からの参戦となる。主人公二人の初戦闘は非常に緊張感溢れる描写で手に汗握る。
幕末から明治の様な価値観が大きく変わっていく時代、どうすれば良いのかわかっていた人、明らかな志があった人はごく少数だったであろう。大部分は変わりゆく世の中に自分を任せて生きていくしかなかった。この世の中の流れに乗れたかどうかが自分の運命を決して行ったのだと思う。世は明治となり世の中の流れに乗ろうとする門次郎と志の強い一郎は次第に生き方が違ってくる。政府軍に身を投じ自害した西郷の首級を発見するという功績を上げた文次郎に対して武士をないがしろにする明治政府に不満を募らせていく一郎。とうとう一郎は大久保暗殺に成功するのだが大久保の最後に私心のない大久保の理想を感じ取ってしまう。明治維新は一つ一つの事件や戦い、あるいは人物を正しいとか間違っているとか単純には判断できない。多くの人材を有しながら全く表舞台に立つことが出来なかった加賀藩という裏側から明治維新を描いた見事な作品だった。

この小説もう一つ特徴的なのは強烈なブルータルな描写があるところ。
ちょっと想像力が強い方は飛ばしたほうが良いかもと思えるところがいくつかあるよ。