「午前10時の映画祭」で見た。
98年に公開された「プライベートライアン」の影響で、これ以降の戦争映画は音響によりブルータルな画面を際立たせる効果が絶大だが、この映画も冒頭の渡河シーンで、この影響がもろに出ている。還暦すぎると見るの辛いよ(泣)。
2001年公開当時はミリタリー的視点から見ていたと記憶する。再現度が高くマニアからも高評価を受けていた。マニア的には3号戦車がかなり大量に出てくるのが嬉しい。もちろん本物ではなく改造車両なのだが雰囲気は出ておりCGでは出せない迫力がある。
今回改めて人間がよく描けている映画だと思った。まず主人公のヴァシリだがソ連の宣伝戦により英雄に祭り上げられるが、単純に有頂天になっていなくて、その頂点でも何やら迷いが感じられる。学問など無縁な羊飼いでも感じとれる共産党の異常さ。この辺、ジュード・ロウの演技上手いよ。そしてダニロフだね。こいつがターニャをヴァシリに取られて柱の陰から睨むところ、いやー戦争映画にしてこんなオタク演技(笑)。ヴァシリがターニャと一発やって完全復活するの対して、ダニロフは振られてしかもなんとかボルガ川対岸の安全地帯に逃がそうとしたターニャが運悪く砲弾で死亡(実は生きていいた)で完全に希望を無くし自暴自棄気味にケーニッヒを討ち取るために自らの命を捧げるという、やはり女の存在は男にとっては超重要・・・いやいや人を操る立場と操られる立場の両方の板挟みに苦しむ難しい役をジョセフ・ファインズ見事に演じきっている。ソ連の悪の象徴としてフルシチョフが登場し、鬼のような指令を次々と下すが、本当にこうだろうとウクライナ進行中のロシア軍を見ていれば、ヒシヒシと感じられる。ケーニッヒを演じたエド・ハリスの渋い演技も素晴らしい。セリフがほとんど無く、これが貴族的な誇り高さを感じさせる。とにかくその強く鋭い眼差しが印象に残る。裏切っていた子供を惨殺するが、自身も息子を戦争で失っており、子供を殺す前に語りかける場面に複雑な心境がうかがえて泣ける。
すでにソ連も崩壊しアメリカ一強時代で反共・反ナチズムの映画というよりも、いつの時代でも通じるマニュピレーションの怖さを描いた名作ですね。
また4KリマスターでターニャのB地区が見えるぐらい画質が良くなっているかと思ったら2000年代の映画なので飛び抜けて画質が良くなったとは感じなかった。