タイトル作の「家康謀殺」は家康の神輿を担ぐ輿丁に紛れた暗殺者を描くが
伊藤作品にある拳を握りしめたくなるような力が入る瞬間が無くてちょっとがっかり。確かにあの落ちだとなかなかそういうシーンは描きにくいかと思われます。
これよりも豊臣秀次の悲劇を描いた「上意に候う」や関が原で、はめられていく吉川広家と毛利家を描いた「陥穽」、作者得意の朝鮮の役物「秀吉の刺客」のほうが人物描写と物語性があって、うぉーーーとなる瞬間もあり、はるかに面白かった。中でも豊臣秀頼に殉じていく速水守久を描いた「大忠の男」は70ページ弱の小品だが戦国小説必須要素の忠義度200%でこの短編集一番の感動があった。