METAL RYCHE m-2316

METAL RYCHE鋼鉄帝国として20年ほど前から やっていたホームページから転進しました。 「鋼の旋律」は主に音楽関係について。 ジャンルは軽音楽なので気楽に読んでくれ。 「鋼鉄の言霊」は社会一般に対する我が闘争。 我が妄想に近いが、我が早漏よりもましであろう。まあ、これも気楽に読んでくれ。 「銀河のスクラップ」は本や映画の感想など人生のスパイスだな。たまに塩味がきついが気軽に読んでくれたまえ諸君。

真実の航跡/伊東潤(集英社文庫)

 最初に断っておくが俺は法廷小説、法廷映画が苦手だ。

伊東氏の作品は戦国小説を中心に読んでいるが太平洋戦争物は初めて。

作品の元になっているのは太平洋戦争末期インド洋で起こったイギリス商船ビハール号における撃沈・捕虜殺害事件。この事件を引き起こした二人の艦長の戦犯裁判が舞台。主人公の若き弁護士、鮫島が五十嵐元中将の弁護人を引き受けて事件の詳細を調べているうちに、根本的問題は旧日本軍の組織的な問題にあることがわかってくる。責任の所在を明らかにしない、それを明らかにする文書などを残さない、いわゆる忖度である。それをわかっていながら軍人としての誇りを全うしようとする五十嵐元中将は、本当にたくさんいた典型的な旧日本軍軍人で死ぬことに対して躊躇なく潔い。それに対して、この事件のもう一人の当事者である乾艦長は米国留学経験があるクリスチャン。明らかに生への執着があって自らの行動にも堂々と言い訳をする。経歴は異質だが旧日本軍人もイメージ通りでは無い人も数多くいた。当然お互いの主張は平行線をたどり、そこにそれぞれの立場でイギリス人とインド人が絡んでくる・・・と、途中までは俺も面白く読んでいたのだが、法廷場面が続く後半になるとどうも駄目だった。なぜかわかんないけど駄目。ただ古い日本から新しい戦後日本に生まれ変わるためには、戦争による犠牲以外にもさらなる犠牲があったことと、それを踏まえた当時の青年達の並々ならぬ努力があったことを思い起こさせてくれた。