METAL RYCHE m-2316

METAL RYCHE鋼鉄帝国として20年ほど前から やっていたホームページから転進しました。 「鋼の旋律」は主に音楽関係について。 ジャンルは軽音楽なので気楽に読んでくれ。 「鋼鉄の言霊」は社会一般に対する我が闘争。 我が妄想に近いが、我が早漏よりもましであろう。まあ、これも気楽に読んでくれ。 「銀河のスクラップ」は本や映画の感想など人生のスパイスだな。たまに塩味がきついが気軽に読んでくれたまえ諸君。

ライトマイファイア/伊東潤(幻冬舎文庫)

 1970年に赤軍派が起こした旅客機ハイジャック事件「よど号事件」を元にした作品。当時俺は小学生だったので、かすかな記憶しかないが、田舎の熊本でさえ学生運動ストライキが行われていたので騒がしかった世間の空気を何となく覚えている。
 警察官”三橋琢磨”は警視庁本部からの指令により雄志院大学学生”中野建作”になりすまし過激化する学生運動の暴発を未然に防ぐため潜入捜査を開始する。接近するのは学生運動の中心となっていた白崎壮一郎。だが学生側も警戒し潜入捜査官を見破る罠を仕掛けてくる。それをクリアし何とか学生運動の中心部に入り込むことに成功するのだが、ここで2つの問題が起こる。学生運動にシンパシーを感じる様になってきた事と、女活動家桜井紹子に抱く恋心だ。
 物語は70年代と同時に現代でも進行する。十人以上の焼死者が出た簡易宿泊所火災。放火の可能性が高いため警察官”寺嶋大輔”は捜査を始める。そしてどうしても特定できない一人の身元不明者と意味不明な英字と数字が書いてあるノート。(そこに書いてある「H・J」の文字は実際の事件でもハイジャックを意味する言葉として使われていた)一体誰が何の目的で書き残したのか、捜査は何度も壁にぶち当たりながらある人物にたどり着く”中野建作”。寺嶋は雄志院大学の関係者を当たっていく。
 三橋は白崎から信頼されるまでになりきり、あろうことかハイジャックの実行犯に選ばれてしまう。三橋は仲間意識が出てきた同士達に罪悪感を抱きつつも、必ず警察が止めると考え行動を共にする。ところがハイジャックという前代未聞で多くの乗客を生死の際に立たせる行為を察知しながら、なぜか警察は阻止しない。結果ハイジャックは成功し北朝鮮への渡航にも成功する。北朝鮮では最初、歓待されたものの、彼らを他の目的に使うための洗脳教育が行われる。(実在の彼らは日本人拉致を行った)三橋は洗脳されたふりをしながらも脱出の機会をうかがっていた。そしてハイジャックから2年ほど経ってついに脱出に成功する。ここまでは一気読み確実の面白さであるが、この作品の神髄は第5章アンフィニッシュド・ビジネスにある。
 最終章では全ての登場人物がパズル完成の如くその関連性が明らかになる。この時のはまった!みたいな快感はたまらない。最終的に明かされる事実にはフィクションとはいえ驚かされる。これがまたあり得そうなリアリティがあるから怖い。
 伊東さんの作品は何かに囚われた人間が囚われたことによって出て来るダークな面を描き出し人間の本質とは何かを問いかける作品が多い。この作品で皆が囚われていたのは日本そのものだということなのか・・・。登場人物の名前は実在人物に近くこれもリアリティを高めている。