METAL RYCHE m-2316

METAL RYCHE鋼鉄帝国として20年ほど前から やっていたホームページから転進しました。 「鋼の旋律」は主に音楽関係について。 ジャンルは軽音楽なので気楽に読んでくれ。 「鋼鉄の言霊」は社会一般に対する我が闘争。 我が妄想に近いが、我が早漏よりもましであろう。まあ、これも気楽に読んでくれ。 「銀河のスクラップ」は本や映画の感想など人生のスパイスだな。たまに塩味がきついが気軽に読んでくれたまえ諸君。

吹けよ風呼べよ嵐/伊藤潤

タイトルはピンクフロイドの有名曲邦題。遙か彼方から聞こえるベース音から静かに始まり徐々に盛り上がっていき凄まじいスライドギターの音で終わる名曲だ。プロレスラー アブドラザブッチャーのテーマ曲に使われてもいたので知っている人は多い。この曲の如く前半は川中島決戦に至る状況説明的に静かに推移する。

 川中島の戦いは戦国合戦の中でも、つとに有名な戦いで、これを舞台にした作品は小説、映画、ドラマが数多くある。多くは武田信玄または上杉謙信、あるいは村上義清が主役なのだが、今作は川中島付近北信濃地方の土豪達が詳しく描かれる。主人公の須田満親と幼なじみの信正が村上義清対武田方の上田原合戦を望見する所から物語は始まる。この二人が後にそれぞれ武田方と上杉方に別れて戦うことになる。これが物語の縦糸になっている。仲が良い二人だっただけに切ない。横糸は長尾景虎(後の上杉謙信)。武田方に追われた須田一族が景虎を頼り、次第に満親は景虎に認められていく。景虎は最初は近寄りがたい威厳を持った存在として描かれているが、満親が近づくにつれて景虎はその苦悩を吐露するようになり、人間味が増していく。川中島の戦いで有名かつ最大の死闘は第五回目の戦いだ。実はこれ以外の戦いは非常に中途半端な戦いに終始している。よって5回目に至るまでは若干長いのだが、そこはピンクフロイドのあの曲も「ワンノブディーズデイズカッチュリトルピーセズ」のあと盛り上がることがわかっていて聴いているのと同じく、クライマックスの5回目の戦いを前にジワジワと気持ち的に盛り上がっていれば良いのだ。戦いは武田方がキツツキ戦法を仕掛けてそれを読んだ上杉方がひっくり返すというのが定番だが、実はキツツキ戦法をとるように仕向けたのは上杉方というところが面白い。そして後年の作り話と言われる信玄対謙信の一騎打ちも謙信が仕掛けたという事になっており、これも必然性をもった説得力があり、心の中は正しく吹けよ風!呼べよ嵐!の状態になる。結局、満親は旧領を取り返せずにこの作品は終わるのだが史実ではこの後も上杉家の重臣となって活躍する。解説にも書いてあるが須田満親のこのあとは是非読みたいと思う魅力的な人物である。(1月6日読了)