METAL RYCHE m-2316

METAL RYCHE鋼鉄帝国として20年ほど前から やっていたホームページから転進しました。 「鋼の旋律」は主に音楽関係について。 ジャンルは軽音楽なので気楽に読んでくれ。 「鋼鉄の言霊」は社会一般に対する我が闘争。 我が妄想に近いが、我が早漏よりもましであろう。まあ、これも気楽に読んでくれ。 「銀河のスクラップ」は本や映画の感想など人生のスパイスだな。たまに塩味がきついが気軽に読んでくれたまえ諸君。

カミカゼの幽霊/神立尚紀(小学館) 23年7月読了

  太平洋戦争末期、日本海軍によって作られた特攻兵器「桜花」。簡単に言えば爆弾にロケットを着けて人が操縦して自爆する飛行機である。話は少しそれるが呉の大和ミュージアムに一枚の1メートル四方ほどの設計図が展示されている。当然ながらすべて手書きで、当時図面一枚書くのにどれだけの時間と労力がかかったか実感できる。一般的に桜花は戦争末期に太田正一という軍人が発案しその熱意によって出来上がったと言われている。構造は簡単な桜花だがその設計は太田一人で出来るわけも無く誰かが設計しなければ話は進まない。しかも当時最新技術であるロケット推進である。つまり日本海軍の組織的な関与が無ければ到底無理な話。では海軍の誰がこの人道無視の兵器を推進したのか。
 太田氏は実戦部隊編成や操縦者の教育にも係わり、終戦にあたり責任を感じ自ら練習機で自爆したと言われていた。
本書は桜花がどの様な経緯で発案から製作決定されて実戦で使われていったのか太田正一という人物を追いながら明かしていくドキュメンタリー。戦時中の関係者への聞き取り調査が可能だったのは2005年ごろまでだったらしい。それ以降は一人また一人と関係者は亡くなっていきただでさえ隠蔽の疑いがある本件は切れかけた細い糸をたぐり寄せるような大変な取材であったであろう。神立氏は以前から日本海軍関係者と親しく丹念な取材が可能だった。細い細い糸は偶然と因縁を感じさせるようにつながっていく。
 死んだと言われていた太田氏は生き残り、戦後いろいろな職業を転々としながらも結婚し子供をもうけ(二号さんまでいた)1994年に自殺未遂を起こした末に亡くなっていたのだった。しかも太田氏は誰に知られることも無い秘匿の人生を歩んだわけではなく、関係者に目撃されそこで会話も交わしている。太田氏が生きていることは公然の秘密だったのだ。関係者の証言から太田氏は特攻兵器開発が組織的に行われていた事を秘匿するためのスケープゴートにされたのではないかと推測されている。実際に桜花の開発・運用を進めたのは当時海軍参謀本部にいて戦後は航空自衛隊から参議院議員となった源田実氏であることはほぼ間違いないだろう。
 今年で戦後78年、関係者からの取材が不可能な今、もはや太平洋戦争の真実など知りようが無い。この本はそんな時代の奇跡的な一冊だと言える。
毎年8月になるとテレビからは原爆、戦争を知ろう!云々のワードが聞こえてくるがそんなもん今時ウクライナ見とけば誰でもわかるわ!と言いたい。太平洋戦争については残された資料から知るのではなく、考えて、感謝すべき人達には感謝し、無責任な人達を反面教師として学ぶ時代にとうの昔なっていると思う。