METAL RYCHE m-2316

METAL RYCHE鋼鉄帝国として20年ほど前から やっていたホームページから転進しました。 「鋼の旋律」は主に音楽関係について。 ジャンルは軽音楽なので気楽に読んでくれ。 「鋼鉄の言霊」は社会一般に対する我が闘争。 我が妄想に近いが、我が早漏よりもましであろう。まあ、これも気楽に読んでくれ。 「銀河のスクラップ」は本や映画の感想など人生のスパイスだな。たまに塩味がきついが気軽に読んでくれたまえ諸君。

復活の日/小松左京(角川文庫)


 この御時世でこの名作を初めて読んだが、読んでいて気持ちが悪くなるほど恐ろしい。ウイルスによって人類が滅んでいく描写は今現在のTV映像とかぶる。特に東京を描いた描写で、人々がただ事では無いと自覚するのが混まなくなった電車というところは完全に現実とダブってしまった。21世紀の現実はここまで止まっているが、小説の方はおよそ3ヶ月程度で人類が絶滅する。
 この作品が書かれたのは1964年。戦後世界中にあれだけの惨禍をもたらした第二次世界大戦から20年経っていない。にもかかわらず、この間、朝鮮戦争ベトナム戦争中東戦争など世界各地で戦争・紛争が起きた。植民地からの独立運動が基本にあり米ソのイデオロギー対立がそれを大きくした。対立の行き着いた果ては核兵器で世界は一瞬にして滅んでもおかしくない数の核兵器保有するに至る。その一方で世界各国は経済発展も目覚ましかった。日本は東京オリンピックが開催された年で高度経済成長まっただ中。まさに天国と地獄が混じり合ったような世界で人類は概ね繁栄を享受していた。この米ソ対立という時代背景がこの作品の主役であるウイルスを生み出す。武漢ウイルスも人工的に作られた細菌兵器という噂があるが、この作品中のウイルスはその細菌兵器として作られた。それが意図しない事故によって漏れ出てしまってわずか半年ほどで人類を絶滅寸前まで追い詰める。
人類は南極に残る1万人程度までになるが、ここに更なる問題が起こる。
そう核爆弾である。ところがこの作品の凄い所というか唸らせてしまうところはこの核爆弾が人類を救うのである。あの人間を大量に殺傷するために配備された核爆弾が結果的に人類を救うのだ。
作品全体が社会風刺になっているが、人類最後の放送と言われる教授が語る約10ページにわたる講義内容に、この作品の主張は集約されている。(これだけ書かなくても作品全体から十分伝わるし、少し長すぎるような気もする)
いわゆる作品タイトルにもなっている”復活の日”は最後の章で明らかにされる。核爆弾の問題がわかって南極から日本人が汚染された北米大陸に行くまでは良いが、それが3年ほどかかって南米大陸の南端までたどり着くというのは”復活の日”という希望を持たせるために必要なエピソードかもしれないが、これだけリアルを感じてしまう作品にあってはちょっとファンタジックな感じがしてしまった。