個人的に宮本輝氏の作品を読むのはかなり久しぶり。昔「錦繍」を勧められて読んでかなりはまっていた時期があり氏の作品は10冊はゆうに超えて読んでいた。
宮本氏の小説は美しい言葉が織りなす美しい物語が淡々と進んでいく。しかし背景には何か不幸とか死などの暗い影を感じてしまうが、それが昭和の大作家の様に陰鬱ではないところが好きだ。
この作品も主人公は妻を5年ほど前に突然死で喪った中華そば店店主だ。やる気を失って店を閉めてしまっている。
小さな商店街のシンプルでわかりやすい人間関係が淡々と進んでいく序盤。亡くなった妻が謎かけのように残した手紙がきっかけで灯台巡りを始めるが物語はなおも淡々と進んでいく。突然物語が動き出すのは中盤にさしかかり親友が突然死し親友が残した隠し子が現れたところから。すっかりやる気を無くしていた中年男の再生物語が美しい灯台の風景と共に進んでいく。亡くなった妻の秘密は最初わかったときは「あれっ」と思うぐらい拍子抜けするのだが、これはミステリーではありませんからね。その拍子抜けからさらにもう一歩踏み込んだところにじんわりとした感動がくる。
宮本氏も小説家としてはすでに超ベテランの域にある。ベテラン作家になれば過去の再生産の様な作品や得意な時代を描いた作品などを書いてしまいがちではないだろうか。
この作品はスマホが登場する現代が舞台だ。その描写も見事で自身の知識や体験がアップデートされているのがよくわかる。
この現役感が作品を活き活きとさせる事に一役買っていると思う。
だからこそ古い作品を改めて読み直してみたくなった。
若いときとは違ってジワーッと来ると思う。