コロナ禍は世の中全てを変えてしまった。ちょっと昔のTVドラマでさえマスクをしていないことや遠慮無く騒いでいるシーンを見ると酷く違和感を感じたり、昔懐かしかったり、あの頃みたいに早く戻らないかなと感じたりする。この作品はこのコロナ禍の世の中を描いた最新作である。帯には「人生もしもの連続だ」とあるがスピリチュアルな出来事が大きく物語を動かし意外な方向に進んでいく事が多い白石作品の中では、案外とんでもない方向には行かない。確かに事の発端である親父の家出は常識が無いと言われるような出来事だが、まあこの世の中、この程度の常識人の理解の範疇を越える出来事なんてありふれている。コロナ禍という特殊な状況の中で繰り返されている人間の営みは本質的には変わらないと言えるのではないだろうか。コロナ禍でも相も変わらず欲望に正直に生きている人間も居て、それに振り回される人間もいる。
ミーコという猫の死がこの作品では重要なポイントとなっているが猫というのは極めて自分中心的な存在の象徴だと思う。おそらく来年にはコロナ禍は克服されるであろうが、克服された中で読むとまた違った味が出て来るであろう作品。