METAL RYCHE m-2316

METAL RYCHE鋼鉄帝国として20年ほど前から やっていたホームページから転進しました。 「鋼の旋律」は主に音楽関係について。 ジャンルは軽音楽なので気楽に読んでくれ。 「鋼鉄の言霊」は社会一般に対する我が闘争。 我が妄想に近いが、我が早漏よりもましであろう。まあ、これも気楽に読んでくれ。 「銀河のスクラップ」は本や映画の感想など人生のスパイスだな。たまに塩味がきついが気軽に読んでくれたまえ諸君。

修羅の都/伊東潤(文春文庫)

 源頼朝は良い国作ろう鎌倉幕府を開いた日本史史上、五本の指に入るであろう最重要人物でありながらなんとなく影が薄い。戦闘系のエピソードが極少なく、折角開いた幕府も直ぐに家臣である北条氏に乗っ取られ直系が3代で途絶えたからだろう。しかしこの作品を読み終えた後、心に”頼朝印”が熱く刻まれること間違いなしである。
 この作品で頼朝は極めて優れた頭脳と強固な意志を持った人物として登場する。それを支える妻の政子や鎌倉武士団も強力だ。後の足利尊氏徳川家康が時代の流れの中で幸運にも恵まれながら幕府を作っていったのとは対照的に平清盛に命を救われるという人生最大の幸運を得てからの頼朝は幕府創設にひた走る。幕府創設の後は武士の世をいかに永続的なもの続けるか心血を注ぐ。かつての自分のように平家復興を願う平氏の残党を生かさない、弟の義経も生かさない、全ての混乱の元凶である京都の公家にも容赦がない。さらに己に対しても厳しい。武士の世を続けるためにはまず自分が武士の鑑で無ければならない。時に一族や子ども達に対しても厳しすぎるほどに接していく。その一途な様は正に修羅の如くだ。頼朝の修羅は魔王後白河法皇と対決していく中で極められていく。そして後白河法皇の死によってようやく武士の世が訪れる。
 ところが程なくして、この鎌倉幕府の中心にして最重要人物、修羅の元凶、武士の鑑である頼朝があろうことかボケ始める。折しも家中の派閥争いが勃発。それを引き金に再びうごめき出す公家勢力。加えて跡継ぎ頼家など実子達の問題までも起こる。これらの問題に対して答えを出せない頼朝。益々問題は大きくなり最早、鎌倉幕府崩壊かという局面を迎える。そこで政子と北条義時が出した答えは頼朝の暗殺であった。これだけ惚けた人物が組織の長では悲劇が続発するのは現代の独裁国家、創業者一代で財を成したような企業を見ればよくわかる。暗殺に至るまでの政子が切なく、暗殺寸前に意識を完全に取り戻す頼朝の言葉も胸を打つ。一つの物事を成し遂げる事が如何に難しいかを切実に感じさせてくれる名作。