METAL RYCHE m-2316

METAL RYCHE鋼鉄帝国として20年ほど前から やっていたホームページから転進しました。 「鋼の旋律」は主に音楽関係について。 ジャンルは軽音楽なので気楽に読んでくれ。 「鋼鉄の言霊」は社会一般に対する我が闘争。 我が妄想に近いが、我が早漏よりもましであろう。まあ、これも気楽に読んでくれ。 「銀河のスクラップ」は本や映画の感想など人生のスパイスだな。たまに塩味がきついが気軽に読んでくれたまえ諸君。

戦国鬼譚惨/伊東潤(講談社文庫)

 武田家滅亡によって人生の切所を迎えた5人の武将たちを描く短編集。5篇の中で一番強烈なのは最初の「木曽谷の証人」。武田を真っ先に裏切ったとされる木曽義昌の慟哭が描かれます。織田軍侵攻を真っ先に受けるのに地理的に新府から遠く援軍もほとんど期待できない。ところが人質を取られているので安易には裏切ることは出来ない。人間追い詰められると本性が出ると言うが、生死がかかると、そう簡単に本性すら出せなくなる。迷った末に己の人質の命を優先しようとするのだが、・・・慟哭ですね。この展開は凄い。
 最初の1篇では、これだけ裏切るのが並大抵でないことが描かれますが、他の4篇では案外あっさりと裏切ったりしてます。でもこの短編集の主人公で生き残ったのは木曽義昌だけ。「画竜点睛」では武田信玄の父、信虎が登場。この方、信玄に追放された後は流れ流れて甲賀で将軍義昭と共に挙兵したりしてかなり生臭い。大河ドラマでは信玄を影から助けるなんて存在でしたが、ここでは何と80代の高齢ながらまだ天下を狙うという恐ろしい存在として描かれる。戦国読み物としてはこの1篇が一番面白かったですね。異色なのは「温もりいまだ冷めやらず」ちょいと暖色系です。ウホッ。そして武田家滅亡と言えばこの人、穴山梅雪。真っ先に裏切って生き残ったわけですが、本能寺の変に巻き込まれてしまう。この作品では信長が家康暗殺計画に梅雪を利用するという斬新な説です。暗殺する機会を逃し自身が危うくなったところで変が起こる。危うく難を逃れたかのように思えたが・・・ここから二転する展開は短編だからこそのスピード感があって良いですね。
 全5篇に共通しているのは長篠の合戦の惨敗と高天神城を見殺しにした事で勝頼に対する信頼が地に落ちた事である。その原因を招いたのは勝頼よりも信玄に原因がある。このあたりは豊臣秀吉と秀頼の関係にやや似ている。歴史は繰り返しますねー。