METAL RYCHE m-2316

METAL RYCHE鋼鉄帝国として20年ほど前から やっていたホームページから転進しました。 「鋼の旋律」は主に音楽関係について。 ジャンルは軽音楽なので気楽に読んでくれ。 「鋼鉄の言霊」は社会一般に対する我が闘争。 我が妄想に近いが、我が早漏よりもましであろう。まあ、これも気楽に読んでくれ。 「銀河のスクラップ」は本や映画の感想など人生のスパイスだな。たまに塩味がきついが気軽に読んでくれたまえ諸君。

ダブルトーン/梶尾真治(徳間文庫)

  夢の中で別人になるという体験は誰しもあるのではないだろうか。夢から覚めてぼんやりとしたしかし確かな記憶がある。それがもっと具体的に日を追う毎に確かに実感出来るようなって来たら・・・。田村裕美は子育てに少し疲れた主婦だ。平凡な日々を愛想が無い主人と共に過ごしている。彼女には自分より10歳ほど若い独身を謳歌する中野由巳の記憶がある。朝目覚めると中野由巳から田村裕美に変わっているようなそんな変な感覚だった。ところがいつの頃からか、かすかだった記憶がよりはっきりとし始め、しかも現実とリンクし始める。そして由巳の方にも裕美の記憶が影響し始める。

 裕美と由巳の生活感の描き方が対比的で面白い。梶尾さんは実際の熊本を舞台にされるが、裕美と由巳の微妙にクロスしてすれ違う生活圏も熊本出身の俺にとっては非常に距離感がつかみやすいので面白さが倍増だ。

 前半もどこか不穏な雰囲気が臭っているが、タツノという謎の人物が現れて一気に雰囲気がミステリー色を帯びてくる。ダブルトーンとは漫画用語でトーン用紙の二重張りの事(つまり暗くなる)だが、段々トーンが重ねられていくように緊張感が増してくる。この辺りは梶尾氏の作家としての力量を示す面目躍如たる描写。はっきりと殺人事件が絡んでいるとわかった場面からの展開はハラハラドキドキで一気読み必至。怪しすぎるタツノが迫るが!意外な真犯人がわかった時は正に事件が起きる瞬間。
たいぎゃな面白かったばい。