METAL RYCHE m-2316

METAL RYCHE鋼鉄帝国として20年ほど前から やっていたホームページから転進しました。 「鋼の旋律」は主に音楽関係について。 ジャンルは軽音楽なので気楽に読んでくれ。 「鋼鉄の言霊」は社会一般に対する我が闘争。 我が妄想に近いが、我が早漏よりもましであろう。まあ、これも気楽に読んでくれ。 「銀河のスクラップ」は本や映画の感想など人生のスパイスだな。たまに塩味がきついが気軽に読んでくれたまえ諸君。

つばき、時跳び/梶尾真治

 いわゆるタイムスリップ物ですが読み進めるに従って時代劇的な切なさが募る。清楚を絵に描いた女性というのは大抵の男心を捉えて放さないものですが、主人公 井能淳が一目惚れしてしまう、つばきさんはまさにそんな女性。江戸時代に生きている彼女は偶然に現代にタイムスリップしてしまう。そんなつばきさんには目の前に実在するのに場所と時間の制限がある。これは男にはたまらない設定だ。主人公の井能惇はどうしても、もう一度つばきさんに逢いたくなる。わかる!もの凄くわかるよ、その気持ち。そして未来人が仕掛けた過去に行ける仕掛けを使って江戸時代のつばきさんに会いに行く。現代に引き戻される限界もわかっているのに。しかもその限界を超えれば仕掛けが使えなくなり永遠に逢えなくなるのもわかっているのに。うぉー切ない。
 主人公が江戸時代から現代に帰ってくるところで一旦物語は終わった様に感じる。変な言い方だが時代劇なら切なさを残してここで終わっているだろう。しかしこれはSFだ。生きる希望を無くしていた井能の元に過去に行ける仕掛けを開発した本人が現れる。彼はタイムマシーンを完成させていたのだ。井能は迷うこと無く現代を捨てつばきさんが待つ江戸時代へ去って行くのだった。
 舞台は作者の地元熊本。百椿庵(このネーミングセンスにユーモアを感じさせるなー)は作者の自宅だったそうだが熊本地震の被害が酷く惜しくも取り壊されたそうだ。また生き人形エピソードは地元熊本でも一部の人しか知らないような話だが、見事に最後のどんでん返しに活かされている。2004年の作品でSFファンの間では高名な作品かもしれないが、一般的な知名度が低いのが信じられない大傑作だった。
大林宣彦が映画化に名乗りを上げているようなので知名度が上がるかもしれないが、映画自体はどうなんだかなー。