METAL RYCHE m-2316

METAL RYCHE鋼鉄帝国として20年ほど前から やっていたホームページから転進しました。 「鋼の旋律」は主に音楽関係について。 ジャンルは軽音楽なので気楽に読んでくれ。 「鋼鉄の言霊」は社会一般に対する我が闘争。 我が妄想に近いが、我が早漏よりもましであろう。まあ、これも気楽に読んでくれ。 「銀河のスクラップ」は本や映画の感想など人生のスパイスだな。たまに塩味がきついが気軽に読んでくれたまえ諸君。

トヨトミの野望/梶山三郎(小学館文庫)

  冒頭の反社勢力エピソードは経済小説と思って読み始める読者の意表を突く作者の巧妙な罠で主人公の武田が破天荒な人物でやることは凄い事だと思わせることに成功している。続いて武田と対照的に凡庸そのもののトヨトミ家御曹司”統一”とトヨトミ家の背景を描くことで更にくっきりと武田の特異性を浮かび上がらせている。物語は武田がハイブリッドカー生産に乗り出す辺りから俄然面白くなる。ところがわずか3章ほどで社長を退くとただただ出来事を並べているような書き方になり、気が抜けたかの如く面白く無くなる。代わった社長である統一の事をほとんど描かない。ところが武田が出てくると筆が活き活きと冴える(笑)。最後の最後は武田が助け船を出してトヨトミの危機を救うのだが、これってタイトルがタケダの野望のまちがいじゃね?
実はこの小説、奥田・・・あっ武田の事を描きたかった小説らしいのだ。
 

  セミドキュメンタリー小説は、まずそれが事実であることが迫力と説得力を生み出す。セミドキュメンタリー小説の傑作と言えば「不毛地帯」だろう。主人公のエピソードは、ほぼ事実だが事実か!と思えるほど凄まじい。この小説もセミドキュメンタリーと言われるが、各エピソードは結構国際企業ではありがちなエピソードだと思う。2016年発表当時、トヨタ自動車の実態だなんて言われたらしいが、墓所に呼び出して誓いを述べるなんていう半沢直樹的わざとらしさにあふれた描写も多い。だがトヨタ自動車にとって重要人物でありながら創業家と対立している奥田碩という人物を描こうとすれば誇張された小説の形を取るしか無かったであろう事は想像に難くない。

    奥田碩という日本人離れした思考を持ち、しっかりとしたビジョンを持った日本人がこのまま忘れ去られることに待ったをかけたことにこそ、この小説の意義がある。解説の最後に「事実に基づいたケーススタディなのだ」などと書いてあるが、これは島耕作を読んで人生を語る様なもんだな。
もっと真面目な脚色無しのドキュメンタリーをケーススタディとして読みたい物だ。