METAL RYCHE m-2316

METAL RYCHE鋼鉄帝国として20年ほど前から やっていたホームページから転進しました。 「鋼の旋律」は主に音楽関係について。 ジャンルは軽音楽なので気楽に読んでくれ。 「鋼鉄の言霊」は社会一般に対する我が闘争。 我が妄想に近いが、我が早漏よりもましであろう。まあ、これも気楽に読んでくれ。 「銀河のスクラップ」は本や映画の感想など人生のスパイスだな。たまに塩味がきついが気軽に読んでくれたまえ諸君。

風の如く水の如く/安部龍太郎

 「道誉と正成」が実によろしかったので同じ作者の旧作を読んでみようと思い戦国時代の武将で一番好きな黒田如水を主人公にしたこの作品を選んでみた。読んでいて既読感があり、あれっと思ったら新聞で毎日読んでいた「家康」(現在中断中)が同じ作者だと今頃気づいた(笑)。
 黒田如水キリシタンだったことはよく知られている。その彼が秀吉死去以降の関ヶ原に至るまでの戦いの黒幕で関ヶ原の戦いは日本にキリシタンの国を作るという如水の野望によって進められたというのが大筋。前半は黒田長政、後半は本田正純が謎解きの主な語り部となって進んでいく。様々な糸が関ヶ原合戦当日を目標に絡んでいく様が実に面白い。

 戦国時代を舞台にした小説は凡人の俺には一生かかっても読めないほど多く存在する。作品毎に異なるキャラクターで描かれる武将も多い。近年、大きくイメージが覆されているのは秀吉であろう。かつては立身出世の権化として世間の一番人気であったが近年は天下を取った後のジャガーチェンジぶりに多くの人がドン引きし第六天魔王信長様の方が優しかったなんて言われる始末である。しかしこの作品に登場する武将達は従来の一般的イメージ通りに描かれている。実はそれが本性や本当の目的を隠す事に非常に有効な効果を発揮している。関ヶ原と言えばまず思い浮かぶのは司馬遼太郎作品。この作品の影響は非常に大きいが何せ1964年に書かれた作品である。これ以降にわかった事実は非常に多く、これを基にしてこの作品は見事に新たな関ヶ原像を造り出すことに成功している。黒田如水黒幕陰謀説はかなり信憑性があり関ヶ原がわずか数時間で終わらず小牧長久手のように長引いていれば如水が何を目指し、誰がその陰謀に加担していたかが、かなり明らかになっていたに違いない。伊達政宗結城秀康あたりまで巻き込んでとなると少し無理があるが戦いを長期化させ西軍=豊臣方の実権を握ろうとしたことは間違いないだろう。

 如水は現代で言えば政治力や人望もある非常に優れた作戦参謀で参謀の性ゆえに秀吉死後に訪れた家康との駆け引きはキリシタン云々を越えて楽しかったに違いない。世に言うゲーム感覚って奴だ(笑)。ほとんど完璧に進行していた計画が息子長政の気持ち一つで破綻するという所に如水の人間としての限界が描かれていて切ない。優れた参謀ではあるが総合力では家康にかなわない。そのことは如水自身もわかっていたかもしれないが、あえて挑んだのはキリシタン国家の実現のため。その目的のためには息子さえ捨てる、という人間性の欠如が如水の敗因だった。家康が勝ったのはつまるところ人間力で勝っていたからだが、その勝った家康でさえ息子に裏切られかけていたという事が最終盤にわかり、如何にこの関ヶ原が、いや家康対如水が際どい戦いであったかを思い知らされる。