宇喜多秀家の父、直家は戦国の梟雄として名を馳せているが、この作品では干拓事業に力を入れるなど理想のために汚い手も使った人物として描かれている。その父の夢を継ぎ楽土を目指す秀家だったが周りがそれを許さない。父から領土を引き継いだ時、宿敵毛利と秀吉が領土内で対峙していた。本能寺の変を経て秀吉が天下を牛耳るようになると毛利は秀吉に急接近。宇喜多の対毛利戦略の存在価値は低下する。秀家はあの若さで五大老になったほどなので相当な能力の持ち主であったのだろう。それを見抜いた秀吉は彼を重用するが、実は本能寺の変後に明智の落ち武者を逃したことを知っており脅迫していたのだった。この老獪な秀吉の描き方は気色悪さがよく出ていて秀逸。秀吉の死後、家康と対峙するが、秀吉の寵愛で成り上がったものの悲しさか、周りには頼りになる味方がいない。かつての宿敵毛利はもちろんだが、石田三成にもそのやり方に不満が募る。家康は秀吉とは違った形の老獪さで追い込んでいく。追い込みつつもまだ引き返す道はありますぞ、と逃げ道を示すところがまた家康らしい描き方。そして関ヶ原は至るまでの家康や毛利方、小早川秀秋らとの心理戦に力点が置かれており秀家としてはなんともし難かった苦難がよく伝わってくる。戦は西軍が完全にはめられたという設定で一方的な虐殺に近い。その後の逃亡を助けたのは落ち武者の息子というのは物語らしい奇跡の設定。逃亡中と八丈島に流されてからがあっさりしているが、ここもう少し描いてほしかったな。本土に戻る機会はあったのに戻らなかったことに秀家の決意のほどが解るのだが、理想を抱いていたのに何もできなかった二代目の様な印象が強くなってしまったのは少し残念。