寝技政治家のような怪しげなイメージがある日本プロ野球界のフィクサー的人物のノンフィクション。
大抵のプロ野球ファンにとって実体が良くつかめない人物なのではないだろうか。
その人物像を22人の証言によって明らかにしていく。
とにかく人脈の作り方と時代の読み方(プロ野球だけに限るとは言え)が凄い。
昭和の時代だからこそ出来たとも言える荒技が次々と語られていく。
それぞれがそれぞれの思いを込めて語っていく内容は非常に濃い。
いかに根本陸夫が人の心をつかんでいたかよくわかる。
選手としては実働4年で全くの無名選手に近く、監督としても4球団で指揮を執りながら優勝は無い。
ところが監督をした球団、あるいはフロントに入った球団はその数年後必ず黄金時代を築いている。
勝つことよりも育てる事、時代を読む事、あるいは人間の出会いや組み合わせの妙を楽しむというか演出するというか、そういうことに生きがいを感じる人だったのだ。戦国時代で言うところの軍師、現代的に言えば参謀タイプが極まった人物と言える。
実はこういう存在になりたいと思うのは俺ばかりではあるまい。
なんの世界でもトップになるのは非常に難しい。
ならば影で支えるのではなく影で操る演出家を目指す人間は、トップをあきらめる人間が多いのだから、これも多いはずだ。
そういうタイプの人間にとっては根本陸夫は理想的とも言える。
しかし冷静に読めば並大抵の人間に出来ることは一つも書いて無い。
トップを目指して一生懸命努力する方が楽かもしれないと思える。
物事は影の部分があって明るい部分が目立つが漆黒の闇を背負って主役を浮き立たせた偉大な人物と言えよう。