旧日本海軍の一式陸上攻撃機について書かれた決定版。後書きにも書いてあるが旧軍の戦闘機については詳しい本がいくつも出ているが、それ以外の機種となると非常に少なく特に一式陸攻は有名機にもかかわらず皆無と言っても良いだろう。日本海軍は非常に欲張りでなんだかんだと理由をつけて不要な物まで作った感がある。海軍陸戦隊はまだしも水陸両用戦車に至っては金の無駄遣いとさえ思う。一式陸攻もそんな過剰兵器の延長線上にある。本来は戦略爆撃として開発・運用すべき機体で、まあ日本の場合海軍だったとしてもこんな機体を雷撃目的で作るとかあり得ない。有名なマレー沖海戦の戦果ですら幸運がなければ失敗。そのあたりの用兵側と開発側のすれ違いが細かく描かれているこの本は開発史としては白眉である。大戦に入ってからの戦闘記録は悲惨そのもので一式陸攻よりも乗員達への同情の念が大きくなる。また戦争後半の戦果誤認の酷さは目も当てられない。それによって更に被害が大きくなっていくという負の連鎖は悲惨としか言い表せない。最悪の悲劇は桜花の母機として使われたことであろう。だが飛行機としては実は優秀な機体であった事も事実。よく言われる防弾にしても後期型はワンショットライターではなかった。それどころか落としにくかったという米軍の証言すらあるぐらいだ。もちろんそれは神業とも言える操縦技術の搭乗員があればこそであったが。用兵がまずくて汚名を着せられた兵器の代表と言っていいだろう。